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◇出会い◇
夢に見る。白く淡い夢を。
目が覚める。モノクロの世界で。
酷く味気ない。酷く物足りない。酷く寂しい。
だけど、だけど何故だろうか。少年は思う。
酷く物足りないだけであり、生きる事に苦しくはなかった。
シンデレラ、そう呼ばれることに違和感を持つけれど、特に何も感じなかった。 否、名前に懐かしさは感じるし、何故だか罪悪感すらもあるのだが。
だがどうだろう。
継母に遣いっぱしりに出され、使用人のまねごとをさせられる。
別に苦渋ではない。特に何も感じなかった。
街に出る。息を吸う。肺いっぱいに息を溜め込んで―――そうして何故だか生きてる実感を覚えた。
生きてる、生きてる、生きてる。足もある、手もある、動かせる。自分の意思で動かせる。
何故そう思うのだろうか。
判らない。
少年は走りだし、買い物を済ませようとする。近道をしようと裏通りに行くときに『ドン』と、誰かにぶつかった。
ぶつかった何かは勢いよく吹き飛んだ。
「わ、わるい!!」
慌てて吹き飛ばした人の手を取ると同時に顔を見た。
地面にへたり込んでいたのは可愛らしい少女だった。ただし何故だか、男の格好をしている。
そうして、その少女に懐かしさすらも覚える。どきりと心臓がはねた。
一目ぼれ、なのかもしれない。男の格好をしているのに、全く男に見えない可憐な少女に一目ぼれをしたのかもしれない。
少女が口を開く。
「いや、こちらこそ済まない」
「あんたが謝る必要ねぇだろ。吹き飛ばしたオレが言うのもなんだけどな……」
手を握る。柔らかな掌が妙にしっくりと自分の手に収まった。
「っていうか、怪我してないか? 大丈夫か?」
少女は黙って首を横に振った。
「そっか、良かった。女の子に怪我させたら悪いもんな」
途端、少女の目が見開かれる。
「ぼ、僕が……女に見えるのか?」
何を変わった事を言うのだろう。少女じゃなければ何になるのか。長いまつげも、赤く色づく頬も、柔らかそうな肌も ―――何をどう取っても女の子だろうに。
何だか良く判らないけれど、それを伝えると少女はとてもうれしそうにほほ笑んだ。
ああ、可愛いな……何て思いながら少年はふと気がつく。
「あ、しまった。名前聞いてないや―――あんたの名前は? つかオレから言うのが普通か。オレはエラ」
「僕はベルナールだ。よろしく」
ベルナール、名前。訊いた瞬間、ギュッと心臓が掴まれた気分になった。何故だろうか。
とても泣きたくなってしまった。
エラが泣きだしそうなのが判ったのか、ベルナールは小首を傾げて―――
「どうかしたのか? エラ」
名前、呼ばれて。
その瞬間、心が完全に掴まれた。顔中の血液が沸騰しそうになる。大声で泣きたくなった。
初めて名前を呼ばれた事に、嬉しくて、嬉しくて。少女が少女の名前を教えてくれたことが嬉しくて。
初対面の少女に思い切り抱きついて―――蹴られた。
END