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◇憧れと現実◇



女の子だったら誰でも憧れる王子様との恋愛物語。
キラキラとした目でここにも例外ではなく憧れる少女………………もとい少年がいた。

「はぁ、素敵。王子様、ベルナール殿下に明日会えるだなんて、トリシュ、心臓がドキドキしてしんじゃいそうですわーーー!」

哮る少女、もとい少年の姿をそっと見つめるのはトリシュの母親だった。
(この国の極秘情報ではあるけど、王子が女の子だと知ったら……あの子どうするのかしら……)
「あら、お母様! どうかしましたの?」
「た、たのしそうねって思って」
「はい! だって楽しみにしてますもの!」
(い、言えない……言えない! でも大丈夫! 王子は『どこからどう見ても男にしか見えない』んだもの。ファイト! がんばれ! 私!!)
可愛らしく小首を傾げる息子に何とも言えない溜め息をつきながら、母親は苦笑いしか出ない。
兎にも角にも、どうにか息子がまともな恋愛をしてくれと切に願うほか無かったのだった。



***


翌日。
とてつもなく軽い足取りでトリシュは登城する。今日は待ちに待った王子様との邂逅の日。
ベルナール殿下は一体どんな素敵な殿方なのかしら、そんな思いを胸に秘めながらトリシュはメイド達に一つの部屋に通される。
(この部屋、この部屋を開ければ、王子様がいる! 私の王子様が!!)
ゆっくりと思いドアが開かれる。そうして―――
「は、初めまして! 私、いえ、わたくし! トリシュと申します!! 本日はお日柄もよろしく! あ、あれ?」
きょとんとして、少女が一人此方を見ていた。
(あ、あれ? 王子様は? ベルナール殿下は……?)
「君が、トリシュ? 初めまして。僕はベルナール」
「え?」
え? え? だって、それっておかしいじゃない。

疑問を頭に巡らせながら、トリシュは少女の姿を見た。確かに男の格好をしているがどこをどう見ても少女だった。
だけれど、不思議な事に。心がときめく。
今まで自分を女の子だと思っていたのに、女の子相手にしたってときめいたことなかったのに。自分が男なのは重々承知している。
判っているけれど心は女の子なのに。
そう思っていたのに。

―――ああ、でも、でも。私は今まで特定の誰かに恋に落ちたことはあっただろうか。
ときめいたことはあっただろうか。
何故か、頭をガンと強く打ちつけられた気分になった。

「あ、あの」
「ああ、すまない。トリシュ、君が父上からどういうふうに聞いているかは判らないが余り気にしないでくれ。 婚約だなんて真に受ける必要はないよ」
「え?」
「単純に父上がちょっと頭が可笑しいだけの事なんだ」

にこりと、笑いながらとんでもない毒を吐いた。可愛い顔に似合わない程のさらっとした毒。
「わ、わたし、気にしません」
「え? いや、でも」
「気にしません! あの、お兄様ってお呼びしてもよろしいですか?」
「…………―――」
眉を顰め、明らかに困った表情を浮かべる王子に内心思わず苦笑してしまった。
こんなに顔に出やすい人が王子なのはいささか心配だとばかりに。
「―――いいよ」
「ありがとうございます! ベルナールお兄様!」

それが、出会い。そういう出会いだったなと、ふと思い出しトリシュは苦笑する。
(あれは、3年前でしたものね)
無防備にも執務室で眠っている部屋の主を眺めながらトリシュは微笑んだ。
「お兄様、起きてくださいまし」
「ん、んー」
まるで子供のように嫌々をするベルナールを眺めながら―――
「どうしてでしょうね。お兄様。私にはお兄様は女の子にしかみえませんのよ」
そんな事、到底本人が起きているときには言えないけれど。
だって今の甘えたがりのポジションは、彼女が自分を安全牌だと思っているからだけの話であって、 もしも本当の事を知ったらもう甘えさせてくれないのではないかと勘ぐってしまうから。

「……」

けれど、ぐっと拳を作り目を伏せる。
「―――ベルナール、愛しています。お慕い、いたしております。貴方は、私の―――ただ一つの……」




END